Saturday, November 18, 2017

大日岳遭難事故に学ぶ 技術のリスク、雪庇のリスク、思い入れのリスク、誤解のリスクとその結末

アルパイン2年目だったころの、11月の山を振り返っています。

■ 富士山での雪上訓練 技術習得

アルパインクライミングをスタートすると、最初に身につけなくてはならないのは、

キックステップ、つまり雪上歩行

です。これができていないと、傾斜が平なところでも(昨日、紹介した遭難事例のように)転んでしまいます。

キックステップは、フリークライミングの側対のようなもので、自分で身に着けられますし、身についている人が見たら、だれでもすぐに身についているかどうか、見ればわかります。

自分で雪山に行っても習得できますが、習得しようという自覚がないと、雪上訓練に行っても、一生習得しないで終わってしまうかもしれない技術でもあります。平らなところ…例:北八つ…でアイゼンを履いていると身につかない…。

私は雪上訓練に出たときには、すでに習得済みでした。雪は3年目だったからです。その年は、2度、雪上訓練に行きましたが、高所の順化に役立つのは、富士山での雪上訓練です。こちら。

雪訓

富士山での雪上訓練は、強風対策・寒冷対策が春山の訓練よりシビアです。たまにニュースで、雪訓中、亡くなっている人もいます。

私は積雪期(春)に富士山山頂へ静岡県側から行っていますが、富士山の傾斜は、走って降りれるほどの緩い傾斜でした。登り6時間、下山は2時間半でした。

■ 鎌ナギで学んだこと 思い入れのリスク

リーダーでもメンバーの実力を客観的事実として判断するのは難しいことを学んだ

鎌ナギ

の記録です。

鎌ナギは南アルプスの深南部という秘境的な山で、この山域でもっとも難しい山です。

山の難易度としては、UIAAのAlpineSummerにあった難易度を基準にすると、T6 Difficult Alpine Hike です。

鎌ナギはT6に必要とされる、Excellent Orientating Skill & substantial alpine experience(卓越した読図技術&アルパインの経験)もなく、体力もないのに行ってしまった山でした。

リーダーは優れた人でしたが、優れた人に任せておけばよいわけではない、ということを学習しました。リーダーだって人ですし、特に、その人の会歴が長ければ長いほど、実力を客観視する力学よりも、なんとか連れて行ってあげたいという親心のほうが優位になります。思い入れというのは、安全に対して、プラスに働くとは限らないわけです。

山の実力を客観視することの難しさ

■ 大日岳遭難事故 若さリスク

鎌ナギの研究をしたおかげで、『岳人』にたまたま、

大日岳遭難事故

が掲載されており、知るところとなりました。

これは、非常に有名な訴訟事件で、

 国が非情

であることが克明に浮き彫りにされています。

こちらのクライマーKさんの情報は、コメント欄に残しておくだけでは、もったいない記録ですから、転記しておきます。

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私が初めて剱岳に登ったのはGWの早月尾根からでした。
大日岳の立山川側に張り出した巨大雪庇がひと際印象に残っています。
合宿最後の日に剣沢のBCから、大日岳を往復することになりました。
最も重要なことは、あの巨大雪庇の上を歩いてはいけないことでした。
稜線の傾斜が緩い部分は雪庇の上です。絶対安全圏は稜線から50メートルと想定しました。
なので室堂側の急斜面をトラバースしていきました。
早朝は雪が硬く、くるぶしが痛いトラバースが延々と続きました。
休息するときは傾斜が緩い雪面に上がりました。そこは岩や這松が露出している所。ここは山稜の上で安全です。この程度のことは山岳会一年目の私でも考えていました。

この事故のときの文登研の講師は、詳しいことは忘れましたが、ヒマラヤで素晴らしい記録をを幾つも残している人です。その時代の尖鋭を歩いていた人です。岳人備忘録でこの人の項目に「この事故の全責任は全て自分にあると、国に言っていた」と書いてありました。事故と国の対応で二重の呵責だったのではと私は感じました。やはり、国側は非を認めず裁判になりました。

天気の良いときに剱岳の頂に立ったことがあれば、早月尾根、別山尾根からも大日岳の雪庇は見えるはずです。
他の山でも縦走をしていれば、雪庇というものが、どんなものか認識していたはずです。
彼は雪庇がどんなものか理解していなかった。つまり壁屋(クライマー)であって、山屋(アルピニスト)ではなかったということでしょう。スポーツの世界では、優れたプレーヤーだった人が、優れた指導者になれるとは限りません。

高度な冬山技術とは何でしょう。冬壁のクライミングではないでしょう。
まず大学生が覚えることは冬山技術の基本ではないでしょうか。


例えばアイゼンワーク。荷物を背負わない雪上訓練では、実際の登山では役不足です。
一週間分のテント泊装備とクライミングギアを背負い、2日間は歩け続けるくらいの山力は必修です。GWに馬場島から登り、剱岳の三の窓にBCを張るくらいのことです。登山技術云々の話はそれからです。
疑問は研修登山期間に学生を保険に加入させていたのでしょうか。あれば、国に過失があろうと、なかろうと保険は支払われると思います。登山研修所が実行する登山なので、研修所がかけるべきです。未確認ですが、講師には日当が払われていると思います。

文登研の所長が言っていることは、典型的な役人の責任逃れの詭弁です。

低価格な学連講習というのは、自称アルパインクライマーで、現在は山に行かなく、人に教えるのが大好きな人が講師というのがあります。有料講習で無資格でもOKなのが日本です。
国際プロガイドでも変な人を知ってます。自動車免許を持っていても、いろいろな人がいるのと同じです。

○○○山岳連盟の岩登り講習会で、残置支点を無視。懸垂下降の訓練中に講師の作成した支点が崩壊。講習生が重傷というのを聞きました。
何年か前の秩父ブドウ沢の事故は、沢登りが2回目の人で、確保なしで残置固定ロープをトラバースさせていておきました。有料の登山学校です。フェラータ方式でトラバース、かつ持参したロープで確保すれば安全だったはずです。遅れて5人も後続しているので、なおさらです。この事故は誰も責任を取っていないと聞きました。

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赤字は、当方がつけています。

この遭難を知ったことで、

・雪庇は遠くから確認して目視で何メートル先が安全か想定しておく
・地物の上で休む
・それくらいは、山岳会1年生でも、できて当然
・まず覚えるべきことは冬山の基本
一週間分のテント泊装備とクライミングギアを背負い、2日間は歩け続けるくらいの山力が基本
・無保険だったらしい(講師にもかかっていなかったことが岳人備忘録に書かれています)
・自称アルパインクライマーで、現在は山に行かなく、人に教えるのが大好きな人が講師=危ない かも
・ヒマラヤに行った人が適切な講師とは限らない
・山岳連盟の講習会だからと言って内容が良いわけではない
・国際山岳ガイドだからと言って内容が良いわけでもない
・講習会でも支点は自分でチェックする

などが分かりました。

■ 被害者は遭難者だけではない

さて、この遭難事件は悲しい事件だったようです。昨日、ある方からこのような感想を頂戴しました。

ーーーーーー
尊敬していた山の会先輩の〇〇さんは先発していたA班の講師でした。事故の後、雪庇を認識していて講習生にも指示していたことを証言、マスコミに誤解されて、今で言う炎上ですね。遺族と文登研の板挟みになり、真面目な方なので、一生懸命、真実を語っておられましたが、国が責任を取らなかったため、自ら責任を取る形でガイドをやめて、山岳界を去りました。今も消息不明です。被害者は亡くなった方だけではありません。悲しい事故でした。
ーーーーーーー引用終わり

つまり、学生の側が、指摘を受けたのに、それを真に受けないで雪庇上で休んでしまった可能性もありますね。むろん、雪庇から落ちた人に直接、指摘していなかったかもですが。

大日岳なんて、雪庇がいっぱいということを知りに行くような山なんで、そもそも雪庇の危険性に無頓着ということ自体がありえない、と思ったりもしますが…、大学一年生だしなぁ。

そうこう、考えている間に、


と題するヨガの文章を読むことになりました。つまり、

 教えても教えても、教わらない人も世の中にいる

という話です。実際、それは、昨日読んだ、若者の雪山ハイキングでの遭難の話と、私が山岳会で見聞きしたことと一致します。

これをどう読み合わせるか、どういう結論を導くか?ということは、個人次第と思いますが、一つ、考慮すべき事実としてあげられることがあるとすれば、

アルパインクライミングで、もっとも死亡率が高いのは、20代男子、

ということです。



それはなぜなのか?ということについても、よく考えてみる必要があると思います。

■ 参考文献

関連図書 『岳人備忘録』

当方の読後禄 https://stps2snwmt.blogspot.jp/2014/11/blog-post_50.html

山本一夫さんが、この大日岳遭難事故を語っています。

それにしても、リスクに備える心が、足元をすくわれるのは、ほんの些細な点ゆえであり、そして、人間なら誰にでも起こりうる心の癖ということです。

それが大きな悲しみにつながり、人生自体の崩壊とも言えるような大事件につながっている…ということを、歴史から学ぶことができると思います。

私が見る限り、大事なことは、怠惰に陥らないこと、よく自分の頭で考えること、小さいことをおろそかにしないこと、客観視しようと努めること、人任せにしないこと、執着を手放すこと、など、普段の生活上でも、やっているべきと思えることばかりです。


2 comments:

  1. kinnnyさん 初めまして。いつも楽しく拝見させて頂いております。

    大日岳遭難事故に関連し、少々お伝えしたく筆をとりました。
    自分は、1986年3月の文登研(大学山岳部リーダー研修会、山スキー研修)に大学2年生で参加し。大日岳山頂まで行きました。
    前日までは吹雪が続いていましたが、当日は好天でした。
    自分が山頂に着くと、先行者は雪庇を回避する位置に集合していました。山頂は広大な雪原となっており、自分は小キジの為 スキーを履いたまま雪原に歩き出した所、講師のどなたかに大声で戻れと怒鳴られました。
    この研修会は、研修所で2日に行動5日で、座学の時に雪庇の事を教わったのにシマッタと思った事を覚えています。山を始めて二年目で山頂の広大な雪庇に驚きました。

    以上 山本

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    1. 山本さん、コメントありがとうございます。

      当事者からお話をいただくとは、大変有意義な情報をありがとうございます。

      かくいう私も春山の七倉沢の枝沢で、小さな雪崩が起きているのを、へぇ~と見ていたら、「そんなんじゃダメ」的な言葉を怒鳴られたことがありました。危機感がなかったからでしょう。

      山をスタートしてすぐは、「そんな大げさなぁ!」と思ってしまいますし、逆に安全なところで怖がったりもしますし、そういう部分でバランスが取れてくるには、人それぞれ、当人に適した時間の長さが必要なのかな、と思いました。

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