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Saturday, September 9, 2017

どうせ連れて行くなら、自分の見た夢の続きを見ている人を連れて行きたい

■ K先輩の思い出

山岳会で尊敬している先輩のことだ。会のメンバー増員のためにヤマレコに会山行をアップしよう!と私が提案したら、

「ええ~ オレ、ヤダ!あんな自己顕示欲だらけの山!」

と言い放った。(ヤマレコの山のこと)ヤマレコに活動報告していた私には、それは新しい見方だったので、”へぇ~そうなんだ~”としか、その時は見ていなかった。

後からヤマレコを起点にした遭難(赤岳真教寺尾根)で死亡した人が自分のレコ友と近い人で、レコ友は捜索に出かけたことを知り、死んだ人の記録を見ると、リスクへの対応力がないまま、どんどんと山の難易度をあげて行った、ということが記録から読み取れた。”なるほど、先輩が言っていたのは、このことか”と超納得。

振り返ると、私はそのような自己顕示欲の山の文化に染まる前に、まっとうな山ヤの先輩に拾われた、山岳会の門を叩いた、と言うことになる。

その先輩の山は、とても目の付け所が良かった。私はちょうど厳冬期の鳳凰三山や甲斐駒&厳冬期赤岳という、一般ルートの中では素人さんが個人の努力で行ける範囲の山をだいたい全部済ませ、リーダー講習も終わらせ、さぁ準備は整いました!という段階で山岳会に来た。

…ので、先輩が選んだルートは、バリエーションルートの中でも、一般ルートに、ちょっと毛が生えたようなもので、例の『チャレンジ!アルパイン』に載っているから行きたい!というようなミーハーな山とは、一線を画していた。

次につながる山が見えるルート選択で、しっかり古典である、『登山体系』を読み込んでいる人にしか選べない山だ。鹿島槍鎌尾根。真砂尾根。

その先輩は非常に頭の良い人だったし、とても山を愛していることが、山の選択から伺えた。

鹿島槍は北壁が有名だが、普通の人は、『鹿島槍研究』を読まないし、ルート研究なしで、いきなり一般ルートの後は、東尾根やダイレクト尾根に行ってしまう。一般ルートの赤岩尾根は、非常に悪く、バリエーションの鎌尾根より危険だ。しかも、赤岩尾根は一般ルートで名が知れているので、巻き込まれ事故もある。実際、私たちが鹿島槍山頂にいたときにヘリが来ていた。

先輩と行った鎌尾根は、表層雪崩がじゃんじゃん起きており、時間を選ぶと言うタクティックスや歩く場所を選ばないと危険という、雪山&残雪期登山の要諦が学べるようになっていたし、標高差や距離でも、かなり急で本格的だった。が、短く、技術面で適度に困難な割には体力度は控えめ、とバランスが取れていた。昨今の5.9くらいのフリーのマルチピッチでアプローチ短めのルートの、アルパイン版って感じ。一般登山者の雪上歩行スキルでは決して歩けないが、中高年主体のメンバーの体力度に合わせてあった(笑)。

山行中、リーダー講習時の先生たちに会って、「次はダイレクト尾根だね!」と言われた。ダイレクト尾根いいなぁ…。体力次第だ。先輩もそう思っていただろう。徐々に鹿島槍の核心に迫れるところまで迫っていく予定だったのかなぁ。

真砂尾根は、要するに剣の前座である。剣を目の前に見る幕営地なのだからして。こちらは自然条件が厳しく長く、少々判断力が要る。行った年は雪が少なくて、ほとんど岩尾根となっており、リッジ上でもロープを出したが、ハッキリ言って、これで落ちるような人はいない。いるなら、もう山ヤには全然適性がない。アイゼンで岩を歩くスキルが必要だが、カンタンなので、「これってホントにアイゼントレの練習にいい尾根っすね!」という感想を先輩に漏らしたら、「トレーニングではなくって本番!」っていう返事が返ってきた。が、易しかったのは本当だ。

なぜなら、当時リードしてくれた若い30代の男性は、育成されているにもかかわらず、自覚が伴っておらず、リードする意味が全然分かっていない人で、後続を確保してくれているのに、追いついたら、両手離してスマホをいじっていた。こんな奴のビレイで、落ちる可能性が1%でもあるルートなんか、歩けない。そもそも、ビレイになっていないのだから。

なので、入会1年目の私ですら、”落ちる確率ゼロ”と感じるくらい、易しいルート選択でないと、彼のビレイで歩けない。しかるに、先輩の選択は超正しかった。

が、この山行は体力度の設定が大きすぎ、雄山東尾根で降りる案は没になり、高っかいケーブルカー代9800円!を払って、のんびり観光モードで帰ったが、剣を目前にした幕営地で、剣への憧れを温めるという、当初の目的は達成したし、源次郎尾根に登るのに裏から登っているおじさんにも会ったりした。裏口入学のススメか(笑)?

いいルートだったなぁ… 真砂尾根、また行きたい。雄山東尾根で雪洞泊するのは私の夢となっている。途中見た、黒部別山。大タテガビン。ガビンホテルに泊まった記録を見たことがあるが、あんな急なところ、どうやって登ったんだ?!と実物を見て思った。

黒部ダム湖から行く真砂尾根は、本格的なアルパインの名所を巡る観光的な楽しみがあり、このバリエーションを歩くことで、黒部十字峡、黒部ベッサン、タテガビン、剣、立山三山、要するにこのエリアの概念が頭に入るようになっていた。要するに初心者に山域の概念をたたき込むのに最適。登山体系を読んでいないと、名所ってことも分からないかもだが。

要するに、このようなルート選択ができる人は、冷静な判断力の持ち主で、非常に優れた山ヤで、山の憧れを温める方法を知っている人である。だから、先輩のことは尊敬している。

が、先輩の凄さを理解している人が、会にほとんどいないのが超悲しいところ。

あ、何の話だったか忘れたが…

そうそう、リスクに対する態度ということだ。

一般に、山ヤは、先輩が、どのようなスキルに対して、どのような困難なら、対応可能、と判断したか、それを観察して、山のリスクの取り方を学ぶ、のである。

実際、私は、Kさんの判断力、つまり、山行計画、から、かなり多くを学んだ。

Kさんの判断力、山行計画力、高校山岳部からのベテラン、体力下降ライン
ベテランNさんの指導力、体力の減衰、ロープワーク力、危機対応力
新人M君のリスクへの不認知、体力のあり余り、雪への不慣れ、リードさせる必要
新人女性Yさんの体力、山への憧れを満たしてやる必要あり、山初心者

などなど、総合的に勘案して、こうしたルート選択をしたわけである。

この山行では、Kさん、ベテランNさんは連れて行く側である。私と新人M君は連れて行かれる側である。ベテランNさんは体力的に終盤しんどそうにしていたのだが、彼がいないと、山行は成立しない。一人で新人二人の面倒見るのは、大変すぎる。

新人二人と言っても、一人は、もう能天気すぎて、リードさせてリスクを分からせないとだめなんだが、ビレイ中に両手を離してしまうような、初歩的なことも理解していない段階であり、一方で若いので体力有り余りすぎで、少々先輩側がキツイ課題と思うようなことをさせても、体力でカバーしてしまい、全然、懲りない…ので、なかなか、”経験から学ばせること”ができない。男性は怖い目に合わないと学ばない。

一方の女性の新人さん(私です)は、山への憧れだけが先走り、”お前、体力面で大丈夫なのか?”という情熱だけで突っ走っているような、しかも、結構、年増のねえさんである。あぶない。

”よし、二人には、急登で先頭ラッセルしてもらおう!”、と当然なるわけだが、二人とも、”何が大変なの?” 程度で涼しい顔をしており、全然、懲りなかった…。

”いや~、それにしても、剣はきれいだな~ でも、新人たち、手に余るなー。Nさんと二人で来たら、良かったなー。でもまぁ、二人だと歩荷負担、大変だし、思ったより、手がかからない姉さんだし、4人でも、まぁ、いっか。山がきれいだからなー” というのが先輩の感想だっただろう。

私は、これら二つの山行では完全に余剰人員、計画のコアメンバーではない。先輩から、”盗む”、”学ぶ”ために連れて行かれたのだ。

そのことを分かっているので、先輩としては、溜飲が降りたであろう… 苦労の甲斐もあったというものだ。ウチの会の実力で、この山すんの、大変なんだぞ。

■ わたしばかりがいい目にあってスイマセン

色々な人が、なんで私ばかりがいい目を見ているの!と思うだろう…。そりゃそうだと私自身ですら思う。

私は、体力もないし、技術もなく、すでに年増で、将来だって、大した山ヤにはなれそうにない。

美人でもなく、歩荷力もなく、私を連れて歩くメリットなんか、どこにもない。

けれど、”分かっている”。 そして、”もっと分かりたいと思っている”。

その理解の背景には、たくさんの時間があることが先輩には分かっている。

山を愛して、山を理解したいと、望んだために、費やした、たくさんの時間が…先輩は、自分も通った道だから、分かるのだ。

だから、先輩や師匠は連れて行ってくれるのだ。

どうせ連れて行くなら、自分の見た夢の続きを見ている人を連れて行きたい、人間なんて、そんなものなのだ。









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