Monday, December 28, 2015

山の世界でも誤解は深い

■ アルパインの危険

 1)地上100mの上に渡された、幅50cmの板

 2)地上10mの上に渡された、幅50cmの板

どちらが怖いだろうか?もちろん、1)の地上100mにある幅50センチの板だ。

アルパインの”危険”は、板が幅50cmであることではなくて、地上100mにあることだ。

一般の登山は、高いところを歩くけれども、整備された登山道は、1メートル幅くらいのゆとりがあるから、高さを感じることは少ないはずだ。

幅50cmくらいの道を、地上100mで、歩いていて緊張しなかったら、その人の危険認識力は何か間違っている。

幅50cmくらいの道は、特別な能力開発をしなくても、人は狭いけれど歩ける。

しかし、100mの高さにあれば、墜ちたら死ぬこと確実。10mでは、大けがはしても死ぬことはないだろう。

だから、ロープが必要だ。

■ フリーの困難

 2)地上10mの上に渡された、幅50cmの板

3)地上10mの上に渡された、幅5cmの板

”一般の人が楽しむレベルのフリークライミング”の”困難”は、板が高いところにあることではなく、幅が5cmしかないことだ。

このレベルになれば、誰でも、多少の能力開発をしないとダメだろう。

■ プロのフリーの困難性は、けた違い

そして、

”プロのレベル”のフリークライマーの争点は

 3)地上10mの上に渡された、幅5ミリの板

幅を狭くしていく。つまり困難度をどんどん上げていく。

今では信じられないようなレベルになっている。例えば センチの世界ではなく、ミリの世界というようなことだ。

■ プロのアルパインクライマーは、危険も困難性もともに桁違い

しかも、現代のアルパインクライマーは

 4) 地上100mの上に渡された、幅5ミリの板を通れるか

というようなことになっている。

■ まとめ

まとめると このようなマトリクスになる。


 危険だが困難でない

 一般アルパイン
 
     B
 
 危険&困難
 
 プロレベル
 アルパインクライミング 
 プロレベルフリー

     D 


 危険でない&困難でない 

   一般登山 
    
    A
 
 危険でない&困難
 
 一般フリークライミング
      
     C


困るのは、一般レベルの、フリークライミングやアルパインクライミングが、プロレベルの危険性や困難性と勘違いされていることだ。

それ以外にも、危険を招く誤解は多い。

昨日、夫をクライミングに連れて行ったら、夫はクライミングよりも、アプローチに使った、トラバース道が、右下は深く渓谷の方に切れていて、怖かったと言っていた。

それを聞いて、充分危険を認知できているな~と思った。

一般に、日本人は、危険の認知力が、集団の様子に依存しているかもしれない、と思う。

山の世界で最初に驚くことの一つは、高度があり、落ちたら死ぬほどの危険な所を、それを補うためのロープやヘルメットを付けずに登降している人(主に中高年)が、ものすごく多いことだ。

たぶん、それは、”みんなが行っているから”に後押しされているような気がする。自分の判断ではなく、周囲の様子によって判断されているのではないだろうか?

一般登山からスタートした場合、ステップアップ先として、目指すところは、BやCであって、Dではない。

高さと言う危険は、ロープを出すことで、マスクされなくてはならない。

だから、最初に、危険に対して、自らを守れるように、防御できるように、ロープを出す、出し方を覚えなくてはならない。

ロープの出し方を学んでいないのに、危険な所へ行きたがる人が多すぎる気がする。

一方で、困難なだけでロープによって墜落の危険をマスクされている、フリークライミングについては、危険だという思い込みが大きく、大きな誤解のもとになっている。

フリーよりも、沢登りの方が危険であるにもかかわらず、山の世界の中でもその逆に誤解している人は多い。

ロープが出る山で、もっとも大きな危険は、人為ミスだ。人為ミスをマスクする、もっともベターな方法は、自分でロープワークをすることだ。

人にさせる、ということがもっとも危険だ。その人がどんなに優れていても、間違えないと言えるだろうか?

というわけで、山の世界でも、二つは大きく誤解されている。

 ・誤解その1 ロープが出る山は危険だから、できるだけロープを出さない
  
 ・誤解その2 フリークライミングは危険

困難度が上がれば、墜落の危険は増える。 しかし、落ちても2m滑り落ちるだけのところでは、ロープは出さない。

その例がボルダリングだ。ボルダリングは困難だが、ロープは出さず、みんなジャンプオフ(つまり墜落)して、上り下りを繰り返している。

こんな簡単な理屈も、分かるのに、5年10年かかる、というのが山の世界の不思議な所だ。