Friday, October 3, 2014

ビバークと登山判断

■ビバークに備える

初めてビバーク体験したのが去年の5月19日です。

それまでツエルトは使ったことがなく、基本的に教科書どおりの登山者なので、「はい、先生」とばかり、ツエルトは持っているだけの装備でした…(^^;)。

道に迷って、下山が遅れたら、焦って動かず、日没前にビバークに入る、っと。沢は下らない、っと。

そういうわけで講習会に出るまでの3年間、ツエルトというのは、

  • 雪の道でバテたら、すぐにツエルトで休めるようにスタンバイ →バテることなく、無事通過
  • 雪と雨交じりの日にカッパ代わりにツエルトを被る 

以上終わり、という使用法で、全くビバーク経験なしでした。何しろ、ビバークになるような羽目を徹底的に避けていたのです。

■女性と男性の安全マージン

以前、夫と散歩していて、カモのご夫婦を見て思ったのですが(笑)、メスのカモは、ドブ川まで遊歩道が離れていて、すごく離れていても、ちょっとしたことですぐ警戒して、じっと人間を見ています。一方、オスのカモのほうは、すっかり人の気配に慣れきって、無警戒…。お昼寝状態です。カモ鍋にして食べられてしまいそうです(笑)

その様子を見て、私と夫だな~と思ったのでした。夫は車を運転していても、数台先が右折の合図をしたのに気が付かず、停止してから気が付きます。私はうんと前に気が付いて、すぐ車線変更のミラーを見てしまいます。

山でも同じで、夫が気が付く前に、「雲が多いな」、とか 「ガスに巻かれると、今いるここは目印がない」とか、考えてしまいます。ので、急ぐときは夫は「え~なんで急いでいるの~?」とのんびり・・・でも、私は、「ここでガスに巻かれると尾根一つ間違いそうだから、早めに樹林帯へ」とか考えているのです… それはたぶん女性だからです。

単独行は、安全マージンが大きい山行形態です。一人で行くと、10の実力があっても、8の山にしか行けません。

最近、ふと思うのですが、同じ単独でも、男性と女性ではやはり、安全マージンが女性の方が大きいのかもしれません。 

男性は単独の人でもやんちゃしています。つまり、男性で、単独が長かった人は、結構ビバーク体験をすでに積んでいます

去年、雪洞泊を一緒に企画した(企画倒れだったけど)若い男性登山者も、大菩薩嶺でビバークに追い込まれ(私的にはどうやったら往復3時間の山でそうなるのか、それが興味がありますが)、相方も普段から寝るときがビバークみたいな体制だし、もう一人別の方も、ビバーク経験豊富そうです。

私はといえば、ビバークになるような羽目に陥るのを徹底的に避けるように計画段階で、計画しています。

いつも、保守的な計画なので、歩けなくなったという経験もないし、予想より遅くなってヘッデン下山の経験も、ほぼゼロです。やんちゃなし、良い子の山時間で今まで来ているのです。

なにより、心理的に追い詰められた状況に陥ったことが、これまでありません。

そうした切羽詰まった状況に陥っても、冷静な判断力を維持できるかどうか、というのは別の話題になりますが、かなり登山のリーダーシップの要諦で、「エンデュアランス号の漂流」の話などが古典です。

■ バットレス

そんな”良い子登山”の私にとって、北岳バットレスが唯一、ビバークの可能性が濃厚な山でした。

何しろ、ピッチ数多いのです。数える人によって違うみたいですが、11ピッチと言う人もいるし、17ピッチと言う人もいます。

■ 大学生もくたくた

今年北岳にレインジャーで行った時、いつも隣でクライミング練習している梨大生が、バットレスに挑戦していて、その彼らの様子が、私にとってはショックでした…20代の生きのいい若者なのに、くたくた…。

これが、自分たちパーティだったら、どうなることだろうか?と青くなりました。

だって、健脚度合いでは、40代登山者をはるかにしのぐ脚力を彼らは持っているはずなのです。

■ 20代との脚力差

20代の脚力と30代、40代、では全然違います。 

私は小屋バイトしていたので、その時、若者のコースタイムを聞くことがあったのですが、標準コースタイム登り6時間の道を、40代の私だと4時間20分で歩きますが、20代はなんと、3時間なんです。半分(汗)。この1時間20分はどうやっても縮みません。

標準コースタイム 6時間         4時間    
わたし        4時間20分     3時間    
20代小屋の若者 3時間         2時間20分 

下山も違います。標準コースタイム4時間の下山は、私にとっては3時間です。しかし、20代の彼らは2時間20分とかなんです。

この尾根は特に急でアップダウンが多く、苦しい道で知られているので、年齢の差が余計出てしまうのかもしれませんが、これだけ体力の差があるということです。

そのように、生命力一杯、体力絶頂期にある大学生の男子が、16時にしかテントに戻れず、くたくた…バスの時間を逃すって…それも、この時、混雑や渋滞は特になかったのです。彼らは、クライミングを始めたばかりなので、ロープワークやクライミングのスキルにしても、同じくらいなのです。

違うのは、あちらが体力が上ってことだけ。

■ 体力のいるルート

そして、バットレスは、体力さえあれば、技術は初心者でも行けるルートって位置づけなのです。

ただ技術がないと時間がかかります。時間がかかれば体力もその分消耗します。つまり悪循環。

私が、大学生の彼らのくたびれた様子を見て、瞬時に理解したのは、”いくら標準コースタイム以上の体力”がありそうでも、このままの状態で、突っ込んだら、絶対に彼らより遅くなる、ということでした。

20代が16時に麓に戻ってこれるなら、40代なら、まだ山頂かもしれません…(><) 下手したら岩場で日没してビバークです。

計画にゆとりを持たせるか、体力がない分、技術で遅くなって、さらに体力消耗を早めることがないよう、技術は、少なくとも遅くなる要因にならない程度に上げてから、チャレンジしないと、リスクが高すぎます。

ガイドさんなどは、四尾根の基部で、前泊ビバーク込の計画を立てていたりします。つまり、ガイドさんも体力の温存を図っているということです。ガイドさんってベテランなのに・・・。

しかしビバーク込にすると装備が重くなり、重い荷物で登攀するほうの技術が今度は必要になり、ライト&ファーストで抜ける、という思想ではなくなります。ヘビィ&スローです。それはそれでまた本格的になります。

うーん…

■ ビバーク

…と考えました。それはやはり、私がビバークになるのを一番嫌うからです。

ビバークというのは、行動体力ではなく、防衛体力の勝負なので、年齢がモロに出ます。

去年のツエルト
行動体力があっても、防衛体力は、年相応に衰えて行くのは、夏場の低体温症の遭難事例を見ていると良く分かります。

ベテランで行動体力も十分な登山者が、低体温症にかかると、あっという間にバタバタと倒れていきます。遭難するような事態になると、大体年齢順です・・・

おそらく、行動体力は、意思の力でトレーニングすることで培うことができても、防衛体力と言うのは、そうした努力が反映されにくい体力なんだと思います。普段の言葉で言えば、抵抗力、ってことですね。

私は登山4年目、保守的な行動計画が功を奏して、まだビバークする羽目に陥ったことはありません。

去年ビバーク体験した時は、シュラフを持ってきていない唯一の参加者でした。が、初めての雪上ビバークにしてツエルト泊は、私にとっては少々怖く、ダウンは甘受しました。

ダウンは夏でも持って歩くので、本番ビバークでも持っているとは思いますが、それでも、だいぶ装備を充実させたうえでの初ビバークでした。今思うと手厚いなと思います。それでもシュラフなしは私だけだったのです、何度も言うようですが(^^;)

もし仮に、山で遭難したりして、本番のフォーストビバークになれば、もっと大変になるだろう、というのは、なんとなく予想できます…

と言うわけで、今度の週末は、またビバークの練習です。別にしなくてもいいのですが、やっぱりやっておきます…

だって、ビバーク怖いんだもん。

■ 共通の体験を培う

最近、思うのですが、先輩への信頼感というのは、日々の月例山行での日帰りの山だけでなく、合宿で、判断力を見ることから、信頼の石をひとつひとつ積み上げていく、というものだと思います。

いつの間にか、先輩たちをすごく信頼しています。

私は、初めてガイド山行に参加した時は、ガイドの資質を見るためにハイキングの山に行くような人です。 ぽっと出の人をいきなり信頼したりはしません・・・

なので、先輩が合宿を保守的な計画で企画したことはかなり、信頼感を高めました。

わたしだって、相手の力量が未知数の時は、そういう風に保守的な計画を立てるからです。

相手が自己申告で10の力がある、というと、6くらいにしておきます。というのは、やっぱり、10の力を10と申告できる客観的な人もいるし、実は8くらいで10と言ってくる見栄っ張りな人もいるし、12あるのに10と言ってくる謙虚な人もいるからです。

相手が見栄っ張りタイプで、8の力の人だったら、8の山に連れて行けば、アップアップになります。その可能性があるため、初めて行くときは、6の山にしておかないといけない。

それは登山をしている人なら、誰だって了解済みなことなのです。わたしだって、初めて一緒に行く人との山は、何が起こっても良いようなゆとりある計画にしておきます。相方とだって、初めて行ったのは蓼科山です。ラクラク2時間の山。

なので、先輩がそういう風に計画してくれた時は、安心感を持ちました。

■ 登っていいかどうか?の判断

私が当初、参加したいと思っていた山岳会では、一年目は、新人は単独禁止で、破線ルートも歩かせてくれないそうです。

それは、その山岳会が、それだけその登山者に対し責任感を強く持ってくれている、ということで、本来歓迎すべきことです。

(余談ですが、それを拘束と感じる人が増え、山岳会離れが進んだそうです。私はそうは感じていません)

私は、とっくに破線を歩いているので、もし、その山岳会に入っていたら、行きたい場所に行けないというストレスはあるかもしれない、とは思いますが、それよりも大事なことは、遭難しないということ。別に歩ける一般ルートはたくさんあるので、下積みは全く嫌ではありません。だって、人一倍下積みがある=自分が楽、なのですから・・・

行きたいところと行ける実力があるところは、だいぶ違います。

行ける実力がないのに行ってしまうのは、そうした実力判定が、それだけ難しいからです。バットレスの渋滞を作ってしまうのは、まさにそうした行ける実力がないのに行ってしまった人たちです。

行ってもいいよ、という判断を先輩にしてもらえる・・・それこそが、山岳会に入っているメリットではないでしょうか?

経験がなければ、自分では、判断がつかないのですから。特に一般ルートでの経験はあまり本チャンでは役立ちませんから。

≪参考サイト≫
去年のビバーク経験
山は総合力
必携!日本の岩場
雪洞泊頓挫

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