Friday, February 12, 2016

危険予知訓練

■ 危険予知訓練 (KYT)

危険予知訓練にも、講習で触れた。これは、登山者がアウトドアの危険を考えるのに、とても良いエクササイズになるのではないか?と思った。

危険予知訓練というのは、難しいことではなく、ある写真を見て、潜在している危険をグループで指摘することだった。

例とするために、もらってきた写真に近い写真を過去の写真から上げる。

例1) 次の写真を見て、考えられる危険をあげなさい。


どうだろうか?これは山で良くある、なだらかな樹林帯の写真。ここでのリスクは

 ・転倒 (ねん挫など)
 ・道迷い 
 ・野生動物(クマ、昆虫)
 ・脱水
 ・火器使用による山火事
 ・日没
 ・隔絶(携帯電波が入らないなど)
 
などなど・・・。

例2) 写真を見て考えられる危険をあげなさい。



 ・転倒
 ・疲労
 ・天候急変
 ・低体温症
 ・脱水
 ・日焼け
 ・道迷い
 ・日没
 ・落雷
 ・噴火?

他にもあるかもしれませんね。

例3) 次の写真を見て考えられる危険をあげなさい。

・寒冷
・虫
・置き忘れ


テントが燃える、などのリスクを上げるための写真を用意したかったが適当な写真がないため、
一応あげておく。

日陰であるので、木立の中で、強風によるテント倒壊の心配はあまりありそうでない・















例4) 次の写真を見て考えられる危険を答えなさい。



 ・転倒
 ・虫
 ・野生動物
 ・寒冷
 ・濡れ
 ・低体温症
 ・隔絶

他はどうでしょうか?
 
設問5) 次の写真を見て考えられる危険をあげなさい。



 ・ホワイトアウト
 ・道迷い
 ・風雪
 ・寒冷による低体温症・凍傷
 ・日没

■ 価値観が身に付く

上記は上げた以上にも、たくさんのリスクが複数の目で見れば、挙げられるものと思う。

実際、グループディスカッション中の最大の成果というのは、
   
 他の人が見落としていた危険を発見できた人の指摘

だった。

こうしたエクササイズをすることの最大のメリットは、

 ・危険を多く予知できればできるほど、良いという価値観が自然に身に付くこと

ではないか?と思う。

■ 危険を予知しない人の方がえらいというカルチャーがまずいのでは?

私が常々、登山の世界で、ちょっとおかしいのではないか?と思うのは、

  ”危険を怖くない(=予知しない)ほうが上”

というカルチャーがあることだ。 

平気平気、こんなところ行ける~とノーザイルで行ってしまうのは良くない。地図不携帯など装備不足も良くない。大雨の中稜線に出るのも良くない。

そうしたことは、本来は、登山の世界では、たしなめられる、眉を顰められることだったのに、今ではそれが普通となり、大手を振っている。

どれくらい大手を振っているか?というと、地図読みして雪の山を歩くという登山のもっともオーソドックスなスタイルが”キワモノ”と言われるくらいだ。

”怖いもの知らず”の方がかっこいいという、危険の軽視、という態度はどういう経緯で出来たのだろうか?

怖いもの知らずを通り越して、無鉄砲がかっこいいということになっているのは、カルチャーとしてやはりまずいと思う。

山は基本的に危険なところだからだ。

■ クライミングは怖いもの知らずではない

一方で、逆に危険を排除できるにも関わらず、危険だと誤解されている危険もある。

昨日は、自分のビレイヤーのビレイが怖くなってしまって、登れなくなったクライマーにビレイを頼まれた。光栄に思った。

クライミングをしていると、クライマーは危険が好きな人だと思う誤解が多い・・・

例6) 次の写真を見て危険をあげなさい。

・寒冷
・低体温症・凍傷
・怪我

と色々と挙げられると思うが、

 転落リスクはない

なにしろ、ロープで確保されているのだから。

ヘルメットもかぶっているから、頭を打って死ぬということは考えにくい。

それでもアックスを持っているので、それが凶器となって自分に突き刺さる、ということはありうるし、仮にこの下に人がいたら、アックスが落ちてくる可能性はある。

したがって、フォールラインには立ってはいけない。


ロープが出る山は、ロープをきちんと使える、という点で、一般登山よりも転落・滑落リスクは、低くなっている。

余談だが、最近亡くなった谷口ケイさんは、ロープを外したタイミングで、滑落してしまったことが死の引き金だったそうだ。ロープさえあれば死なないで済んだかもしれない。

■ チャレンジ・バイ・チョイス

一方、この状況で、リードするほうだったらどうだろうか?この滝は7m程度だったが、その程度とはいえ、転落したら、骨折で済めばいいほうで打ち所が悪いとまずいことになってしまうだろう。

したがって、セカンドとリードが引き受ける危険の量は全く違う。

ここでは”チャレンジバイチョイス”という原則が生きる

引き受けられる危険の量は、クライミングの技量や、その人が怪我や登山による死、ビレイヤーへの信頼など、どれくらいの危険を受領できるか?によって、決まってくる。したがって、嫌がる人に、リードは無理やりさせてはいけない。

ロープワークさえきちんとしていたら、セカンドは転落リスクがない。そのセカンドが自分が請け負う危険より、多くを請け負え、と相手にリードを要求するのは、厚顔というものだ。

■ 効果

こうした危険予知のグループディスカッションは

 ・危険に対する感受性を鋭くする

 ・集中力を高める

 ・問題解決能力を向上させる

 ・実践への意欲を強める

とされている。実際、私自身も継続的な学習の意欲は、学習そのものだと感じている。

■ まとめ

登山を学ぶ、山を学ぶというのはどういうことだろうか?

私には、海ではない、砂漠でもない、日本の山岳地帯特有の危険(とその反面の魅力)を理解することだ、と思える。

また、危険があるからこそ、危険をあらかじめ予知し、それに備えて出かける、ということが大事だという価値観を身に着けていくこと。

チャレンジバイチョイスを徹底し、危険を他人に無理強いしない、ということが登山のチャレンジの根底にある価値観であるように願う。

≪参考資料≫
キャンプを企画する人のためのリスクマネジメントの手引き







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