Wednesday, May 14, 2014

登山家の死

■登山家の死

去年、私の知人が剣で亡くなった。顔も名前も知っている人が亡くなり、少なからずショックを受けた。

あまり深く知る相手ではなかったのに、とてもショックを受けた。

そのショックの大きさは、遭難者を知る量とくらべると、いささかアンバランスで、そのアンバランスさに
私自身が驚いた。

あまり深く知らない人の死は、通常はそれほどショックを受けないものだ。では、なぜ私はそんなに彼の死が気に触ったのだろう?

私は登山については新参者で、業界の事情?はあまり深く知らない。 

それでも、なんとなしに空気感で感じるところはあり、下界を山に持ち込むことに血道をあげる中高年登山でもなく、自然についての勘違い甚だしい山ガール登山でもなく、山に自分の青春をささげる挑戦型登山でもなく、あるいは、自分の肉体能力の開発の場を山に求めただけのスポーツクライミングでもない、はたまた、高所遠足の海外登山をして、そうとしらない一般人にすごいと行ってもらうための山・・・でもない、新しい何か・・・何か新しい登山の形態を彼にうっすらと期待していたのかもしれない。

惜しい人を亡くしたという気持ちが非常に強かった。

■ ベテランの死

今年気になるのは、68歳の登山家、本図一統氏の遭難である。この方は、登山家だが、一般のニュースでは、一市民として扱われており、普通のニュース記事などでは、事情に無知な外野から、「経験豊富なって言ってもどんな登山経験なのか?」などという、大変的外れな指摘を受けていたりする。

この人は『登山家が愛したルート50』に寄港することができるくらいの、大ベテランで、寄稿されたフェイバリットルートは、剣沢大滝、だ。

このルートはすごいルートで、
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有段者のクライマーが焚き火のテラスから丸一日奮闘するルートだ。1962年に初遡行されて以来、剣沢大滝を完全遡行した者はこれまで20人に満たない。とヤマレコにある。
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それを登った人だ。要するに平たく言うと、その辺の登山者とは全く違う。

■避けえないものだったのか?

登山における遭難というのは、避けえないものだったのか?ということを誰しもが考える。

その答えは、往々にして、事情が分かる程度によって、だいぶ異なる。

遭難に対して、ある程度のしっかりした見方ができるということ自体が、その人の登山理解度を示すくらいだ。

というわけで、私は私の登山の狭い視野からしか、この遭難を憶測することはできない。

けれど、これほどの大ベテランが、大した悪天候でもないGWの穂高の稜線で、道迷いと低体温症で行動不能に陥り、なくなってしまうとは。

私の師匠は60代後半で私は40代に足を突っ込んだばかりなので、他山の石として非常に気になる。

■ 後進に経験させてやりたい、という思い

第一に思ったのは

 ・大きすぎた思いやり

だ。これほどのベテランはこの程度の山は、おそらく何度も行っているはずで、そして、この程度の悪天候など、なんども経験しているはずなのだ。

ちょっと話が逸れてしまうが、悪天候だと遭難が増える。これは確率論で仕方がないようだ。が、平年と比べると今年はそんなに天気は大荒れではなく、よく世間一般から言われるように「悪天候で突っ込んだのだから自業自得」という論理は、あんまり山ヤさんのココロには響かない。

ちょっとくらいの悪天候でピーピー言っている位の人は全然山ヤではないからで、山ヤでない人は、山ヤを諭しても、ぜんぜん話がかみ合わないのだ。

近年は、”山ヤ”といえるようなレベルの人から見ると、行動可能な悪天候で、行動不能に陥る人が多いらしく、詳しい人は、登山者のレベルの低下を嘆く。 つまり山ヤでない人が山に入っているからこその遭難、というわけだ。

そういう天候の知識不足(無知)による遭難は単純な犬死であり、これほどもったいないことはない。しかし、天候の知識不足というのは、結局は個人の判断力の程度問題でしかない。多くの人にとって、天気予報さえ見れば済む話だったりするのが、むなしいところだ。私はその日は山は山やではない夫と焼岳を予定していたが、地震もあったりで山はお休みにしている。

話を元に戻すと、大ベテランは、悪天候について無知だったはずはなく、一般の人が天気図を見て読み取るより、多くのことが天気図から読み取れ、そして、正しく山行のスケジュールを組めたはずだ。

人は一般に年を取るほど慎重になるので、悪天候を押して良く分からないけれど突っ込む、といった無計画さ、言い換えれば、無謀さ、無鉄砲さがあったとは想像しにくい。

というわけで、私が想像をせざるをえないのは、パーティ全体でなんらかの不調やつまづきがあり、それが引き金になった、ということだ。

これについては、事故報告などを待つしかないが、気になるのは、3人パーティのメンバー中、68歳のリーダー以外が40代であること。40代のメンバー一人もなくなっている。

私は登山についてはあまり深く知らないので、誰かから登山を教わる必要があり、それは今日の社会的事情からすると、おおよそ、ベテランの60代ということになる。

登山を教える人は、教える相手に、より大きな山、その人の体力・技術の範囲内で経験できる、より大きな山を経験させてあげたいと思うはずで、それは基本的に思いやり、なのである。

ある登山者が10の山を登れると、師匠が判断すると、師匠はできれば、10の山を経験させてやりたい、と思うはずだ。11、あるいは12の山を経験させてやりたい、と思う人もいるかもしれない。

思いやりや、もしかすると相手への期待が大きすぎると、11の山で辞めておけばよかったところを13の山に一緒に行くことなってしまうかもしれない。

特に登山には、私のように最近登山を始め、若いころからの経験の蓄積がない、いわば、会社で言えば、中途採用のような人も入っているので、そういう人の体力や行動原理は読みづらいかもしれない。 登山では予想できるということがリスクを大幅に減らしたりすることがある。

■ 意外性

もう一つの可能性は、

 ・体力の見積もり違い

だ。

60代の体力は、個人差が大きい。60代でも前半と後半では、体力差が著しい。

80代のエベレスト登山は素晴らしいが、いつなんどき倒れても…というバックアップがある状態での話だ。一般登山者にはそのようなセーフティネットは通常は期待できない。

60代というのは、一般論だと、思ったより弱い可能性が強い。思ったより強い、という方向にあてが外れるケースより、思ったより弱いという方向にあてが外れるケースが多い。

40代の男性もそうかもしれない。40代は働き盛りで、仕事にとられる体力が大きく、余暇の登山に回ってくる体力貯金はそう多くない。夫は私より全般的にみると弱い。

だたしこれも昔からの山ヤで細々とでも続けた人か、それとも再開した人か、最近の参入者かでだいぶ違うと思う。

40代の体力の当てが外れたのか、60代の体力の当てが外れたのか? どちらにしても、想定の当てが外れたこと、が、このありふれた場所での遭難につながった可能性はないのだろうか?

いづれにしても、事後の事故報告書の内容が気になる遭難だ。

どういう想像をしても、遭難してしまう場所としてはあまりにありふれていて、そのありふれた場所であるということが、これほど優れた登山家の遭難をして、あまりに稚拙な感じを残すのが、とてももったいない、と思えてしまう。


≪参考サイト≫
http://ameblo.jp/2012skymoungten/entry-11844524426.html

http://tetsuya-shimizu.seesaa.net/




2 comments:

  1. この遭難はGW後半の三連休最後の日でした。
    このとき私たちは奥又白に入山していました。
    3日目に悪天になると、入山前から予想されていました。
    なので2日で徳沢に戻りました。

    朝6時に徳沢を上高地に歩き出しました。
    まもなく小雨が降りだしました。

    遭難パーティが登ったジャンダルム飛騨尾根は、私は2人でGWに登ったことがあります。
    2日目にジャンダルムとコブ尾根の頭のコルに到着。テントを張り終えたのが15:00位でした。翌日は西穂高山荘経由で新穂高に下山しました。
    このままテントを張らずに穂高岳山荘に縦走したとしたら、到着時刻は17:00時くらいになったでしょう。この時の私の年齢は40歳後半でした。

    遭難パーティは2日目にどこかでビバーク。3日目に穂高岳山荘を目指して、間違い尾根で遭難しています。遭難パーティは3人で時間がかかったでしょう。

    GWの3000メートルでの悪天候を甘く見てはいけません。
    過去に経験した槍ヶ岳西鎌尾根(30代)、明神岳稜線(50代)の強風で私は低体温症になりました。用心している厳冬期の山では経験がありません。近年では鳴沢岳遭難、白馬岳遭難もGWです。
    私は60越えですが50歳前半より行動体力、防衛体力は格段に低下したと感じています。
    悪天は避けるに限ります。

    この遭難の2~3年前にも同じ所で名古屋の山岳会が遭難しています。
    奥穂高頂上までたどり着けたら、悪天候でも確実な、涸沢への下降ルートがあります。奥穂直登ルンゼです。頂上のケルンの目の前が入口です。ここはスキーで滑降しているルートです。下りだせばすぐに風がさえぎられると思います。ここを知らないということは山屋としていかがなものか。クライマー山を知らずということでしょうか。
    一般ルートで山に登るということは、山域概念の把握、エスケープルートの想定等で重要です。穂高で遭難が多いのは涸沢岳西尾根、まちがい尾根、前補北尾根四峰。

    経験豊富な人が安全に配慮した登山をしていたかは、記録からではわかりません。
    フリーで14が登れても、ビレーがいい加減な有名プロが結構います。これと同じだと思います。

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    1. ClimberK様、コメントありがとうございます。

      そうですね。本当に過信とは恐ろしいものです。 悪天候は避けるに限る、と私も思います。

      また一般ルートで山に登るということは山域概念を把握すること、という点も強く同意します。イマドキは、ピークを踏むことだけのスタンプラリーゲームに陥っており、山域の全体像をつかんで登る、という思考法が忘れ去られているように思えます。

      亡くなられた方がどのような判断をしたのかは不明ですが、強気の判断が一番良くないと、近日の自分の山行からも感じています。

      判断は弱気を旨とすべし!です。

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